迷い

その夜、さぎりは静かな森の中で火を焚いていた。
風に揺れる木々の間からは月の明かりが漏れていた。
少年は揺らめく炎を静かに見つめていた。
(この先どうなるのだろうか?俺には何か成し遂げられるのだろうか?)
この年頃の若者が抱くであろう漠然としたモヤモヤを少年もまた抱いていた。
揺れる炎を見つめる少年の目は真っ赤な太陽のように染まっていた。
(自分が生まれたことに何か意味があり、それをなすために自分が生まれた。)
そんな風に少年は考えていた。
ふと、天を仰いだ。
幼い頃からまったく変わらない、いつもの星空がそこにはあった。
この星達は幾千年輝き続けているのであろうか、
そしてどのくらいの人がそれを見つめたのであろうか。
「ああ・・・」
思わず少年は声を漏らした。
(この星々の永遠に比べ、人というものはなんと儚いものか・・・
 そして俺という人間の卑小なる事か・・・
 だからこそ、少なくとも今からは俺も一瞬でも輝きたい・・・
 そのためには・・・まずこの森を抜けねば・・・もう十二日も迷ったしな・・・)
 ぎゅっと唇を噛みしめてさぎりは誓うのであった。

  


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